2009/05/06

ルリユールおじさん


ルリユールおじさん
作 いせ ひでこ
理論社
1600円+税
ISBN 4652040504

 この本は絵本でもあるし、画集でもあるし、ルリユールの解説書でもある。

 絵本としてしっかりとしたストーリーを持って、子どもだけでなく私のような大人をも次はどうなるのだろうという気持ちを持たせ、少女とともにパリを駆け回らせてくれる。この少女は作者の分身か作者自身ではないかと思う。子どもの無邪気さともう一人の主人公であるおじさんの優しさが、この少女の目線でしっかりと絵と文章に、それも短い言葉であらわされ、このままで映画にもなりそうです。
 この本に出会うまで、この口になじみにくいフランス語「ルリユール」というものを知らなかった。初めて手に取って読んだときも口になじまなかったこの言葉をこの本の巻末の解説を道しるべに調べてみた。理由はよくわからないが、フランスでは印刷業と製本業が兼業出来ない仕組みになっていたらしい。「ルリユール」とは印刷された紙の束としての本に装丁を施す仕事で、その作業内容はこの絵本の中に細かに描かれている。中学生の頃、学校の図書館の司書の方が痛んだ本をばらして製本しなおす作業を図書委員であった私が不思議なものを見る思いで眺めていたことを思い出す。

 子どもたちに本を大切にする心も教えてくれるのではないかと思う。新しく生まれ変わった本を手にした少女の喜びが気持ちよく感じられる本です。

 

2009/03/07

古事記 日本の古典をよむ 1

古事記
日本の古典をよむ 1
山口佳紀・神野志隆光 校訂・訳
小学館
1890円
ISBN 978-4-09-362171-7

  当店のすぐ近くにある賣太神社は古事記伝承者の稗田阿礼で知られている。古事記、また同時期に書かれたとされる日本書紀の時代、いわゆる記紀の時代にわが国はまだ書き言葉を持っていなかったといわれる。ひらがなカタカナが確定するのは平安時代を待つことになるのだが、この時代にはどうしていたのであろうか。文化の源は中国で、漢字で書き記された漢文が国際用語であり、当時の記録の公式な用語であったとされている。その中で古事記は漢字を当時の日本語の音にはめて漢字で書き表されている。一方日本書紀は漢文で書かれている。
 日本書紀が正史とされてメインとなっていたが本居宣長が古事記に読み仮名をつけて注釈をつけた大書「古事記伝」を著すにいたって注目されるようになったという。このあたりは本書のあとがきを参照されたい。

 まだ大和言葉を書き表す独自の文字を持つ前に数十年にわたって伝承された歴史が検証され書きあらわされた時代、古典のシリーズで筆頭に上げられるこの古事記を現代語訳と原文を織り交ぜてとても読みやすくなっている本書を通してそうした日本の古代にしばし遊ばれてはいかがでしょうか。田辺聖子さんは「古典は、われわれの先祖が残してくれた人間味のある文学。何百年も読み継がれてきた魅力に触れてほしい。」 と、書いておられます。

2009/03/03

赤い鳥小鳥



北原白秋童謡詩歌集
赤い鳥小鳥
画 一乘清明
責任編集 北川幸比古
美しい日本の詩歌 13
岩崎書店
1500円
ISBN 978-4-265-04053-7

♪あーかいとりことりー なぜなぜあかい、あかいみをたーべーたー

と歌った覚えのある童謡、の題でふと手にした図書館の本、ぱらぱらと見て白秋がこんなにもたくさんの童謡を書いていたのかと驚いた。少しでも知っているものだけでも ちんちん千鳥、揺籃のうた、砂山、かやの木山の、ペチカ、からたちの花、この道、赤い鳥小鳥、童謡ではないですが城ヶ島の雨。教科書にも出ていた からまつの林を過ぎて、の「落葉松」

さらに図書館から借りて読んでみて 「えっ?」と思ったのは
「水馬(あめんぼ)赤いな。ア、イ、ウ、エ、オ。・・・・・・」
この一節は演劇をやる方なんかが発声練習によく使っているところ、これが「五十音」という題で 最後のンはないけど、ヲまでが詩歌として歌いこまれていて、それも白秋が作ったものだったとは、

あとがきなどからいろいろ知らなかったこともたくさんあったが さらに最後のページでこのシリーズの刊行の言葉がのせられているところから少し
「 かつてわれわれの先人たちは、たしかなやさしい心と、美しいことばをもっていた。その言葉のあとを追ってみよう。
 われわれ自身の、やさしい、人間らしいことばをつむぎだすために。」小西正保